大判例

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広島高等裁判所松江支部 昭和30年(う)14号 判決

「日本銀行法第二九条は『日本銀行ハ銀行券ヲ発行ス前項ノ銀行券ハ公私一切ノ取引ニ無制限ニ通用ス』と定めていて、日本銀行券が刑法第一四八条第一項に所謂通用の銀行券であること即ち強制通用力を有することを明かにし、更に日本銀行法第三三条は『銀行券ノ種類及様式ハ主務大臣之ヲ定ム主務大臣前項ノ種類及様式ヲ定メタルトキハ之ヲ公示ス』と定め右規定に基き昭和二四年一二月二八日大蔵省告示第一〇四八号が昭和二五年一月七日から発行される日本銀行券千円の様式を定めている外その他の日本銀行券についてもそれぞれ大蔵省告示によつてその様式が一定されている。而して日本銀行券千円について右告示は寸法を縦七六ミリメートル横一六四ミリメートルと定め、すき入の文字及模様表裏の輪廓文字肖像風景地模様印章記号及び番号につき厳格な規格を定める外、その他の日本銀行券についてもそれぞれ同様の厳格な様式規格が定められている。さすれば貨幣経済の下において貨幣制度が果している役割の重要性にかんがみるとき日本銀行券の外観を存しているものであつても右それぞれの告示の定める様式規格に合致しないものは強制通用力を失い即ち真正の日本銀行券としての効力がないものと解するのが正当である。

原審は通用力ある真正の銀行券にその効力に変動を来たさない程度において形状その他外観上の変化を惹起せしめても通貨偽造とならないから日本銀行券千円券の縦八分の一に相当する面積部分を切断して、その部分を取り除き残り両端部分を貼り合わせたものはなお通用力ある銀行券に外ならず従つて右切断貼合の所為は通貨偽造罪を構成しないものと解し損傷日本銀行券引換規程によつても右の旨が窺われる旨判示している。しかしながら通用の日本銀行券と称し得るがためには前記のとおり法定の様式規格を存するものでなければならず、従つて銀行券の縦八分の一を取除き両端の残存部分を貼り合わせたものは右様式に合致しないことが明かであるから強制通用力を欠き有効なる日本銀行券に当らないものといわなければならない。

日常の生活において銀行券の一部が毀損し法定の様式に合致しないものを支払手段として授受して怪しまないのは損傷日本銀行券引換規程によつて当事者間に不測の損害を生ずる虞がないためであると解せられるのであつて損傷銀行券といえども真正の銀行券として強制通用力があるがためではない。なお損傷日本銀行券引換規程によれば日本銀行は損傷日本銀行券を一定の条件の下に他の通貨と引換えるべき旨を定めているが、損傷銀行券が他の通貨と引換えられるか否かは銀行券の損傷が銀行券の偽造又は変造となるか否かとは別個の問題であつて損傷銀行券が通貨と引換えられるが故に銀行券の損傷がその偽造又は変造にならないと論断することは許されない。

これを要するに行使の目的を以て真正の銀行券の中間の一部を縦に切除し、残余の両端の部分を継ぎ合わせ一見完全なる一枚の銀行券の如き観を呈するものを作出する行為は右のものが損傷日本銀行券引換規程により引換可能であつても銀行券偽造罪に該当するものと解すべきであるが被告人は真正の日本銀行券千円券の中八分の一に該る縦の部分を故意に切除し残余の左右部分を継ぎ合わせて新たに通用の千円券類似のものを作出したと謂うのであるから被告人の右所為は正に銀行券の偽造に他ならない。」

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